今日は、国立天文台の知り合いの方の紹介で、
「第9回自然科学研究機構シンポジウム ビックリ4Dで見るサイエンスの革新」
に行ってきました。
自然科学研究機構は、昨年11月にパネリストとして参加させて頂いた、科学未来館でのシンポジウム
「身体の中のにぎやかな世界 ~ライブイメージング技術で見えてきた、細胞たちの働く姿~」
でとても深く関わったと言うこともあり、その点でも今日のシンポジウムはとても楽しみにしていました。
結論:メチャメチャ面白かった。そして考えさせられました。
以下、自分が忘れないように、と言う意味も込めて少々長めに。
まず、全体を取りまとめていらっしゃる岡崎統合バイオサイエンスセンターの永山國昭先生の考え方が、僕の考え方ととても似ている点に感激しました。
永山先生は、「Avatarに迫るサイエンス映像を。」と何度も仰っていました。僕も取材を受けるときに、よく次のような説明をしています。
「Star Warsをイメージして下さい。色んな惑星や飛行機などが出てきます。惑星が分子になり、飛行機がシグナルになったと考えて下さい。ときどき出てくる凶悪な敵はウィルスか細菌です。しかも、それぞれの形や動きは科学的に正確です。すると、大迫力のサイエンス映像が出来ますね。」
僕は常にそう言う映像を作りたいと思っています。今はまだ学生で、予算もほとんど使えないし、機材も無いし、ましてや人を雇って何かしてもらうなんてことは全く出来ませんが、エンターテイメントとしても非常にクオリティの高いサイエンス映像を作るために、CTやMRIで画像を取って3DCGとして使いたいし、蛍光タンパクか何かで染めた物質の動きを計測して、その動きをそのままアニメーションに使いたい。
今日、永山先生を始め何人かの先生が仰っていましたが、画像や映像で見せるというのはとてつもない力を持ちます。画像や映像で何かを見せられると、それが本物だと簡単に信じてしまう傾向が非常に高くなります。だから、特にサイエンスを題材にした画像や映像を作る際には、少なくとも基本的なサイエンスは絶対に作品に取り入れなければいけない。
サイエンスのド素人にサイエンス映像を作らせるのはあまりにも危険が伴いすぎています。アーティストというのは自分の個性を主張したいと言う願望が非常に強いと言う特徴がありますから、それを許してしまうと科学は二の次、自分が表現したいものを優先してしまい、その作品を見る多くの人を誤った方向へ突き進めてしまうことになります。
その意味でも、サイエンスとアートとの両方をわかっている人材は非常に重要なのです。
ただ、日本とアメリカとの違いを改めて痛感したのが今日のパネルディスカッションで、ユタ大学の大綱英生先生によれば、ユタ大学にはComputer Imagingのためのセンターがあり、しかもそれはAdobeの寄付によって立てられ、大学院生にはMayaの講義や実習もあり、研究者がMayaのような優れたソフトを研究に応用しているそうです。そして、研究者の要望に合わせてpluginを書いたりすることが、職としてしっかり確立されているのだとか。そんなのは当たり前なはずなのに日本には全くない。ポストがない、研究者がそれを職として認めていない、ソフトを書いただけでは論文になりにくい、評価されにくい、など、悲しい問題が日本には多いようです。こんな当たり前のことを出来ていない日本にいることが悲しくなります。
今日はハリウッドから、アカデミー賞も受賞されたデジタルドメインの坂口亮さんもいらしていたのですが、坂口さんも「アメリカではVFXの研究者がアカデミー賞で受賞されるという、日本では有り得ないことが普通に行われている。」と仰っていました。業界の中で偉大な功績を挙げた人物には、業界が用意した非常に名誉な賞が与えられる。人間、目標になるものがなければ向上しません。当たり前のことが当たり前になる日が日本にも来て欲しい。
立花隆氏も「日本ではアウトリーチ的な映像を作って一般社会から評価を得られても、学者としての経歴にならない」と仰っていました。
4D2Uプロジェクトで一般社会から絶大な人気を得ている、国立天文台の小久保英一郎先生は、「アウトリーチで作った映像は研究に貢献するかと言われると、あまり貢献はしないかも。」と仰っていました。
僕が作る映像もまさにその通りで、「細胞の世界」「心タンポナーデ」そして裁判員裁判での3DCGも、一般社会からは割と評価をして頂いているのですが、それで論文になるわけでもないし、学者の世界で評価されるかと言われるとたぶんされないでしょう。最初からそんなものは目指していないので気にしてはいないのですが、東大にいると「で、治療に役立つの?」とか「論文に載るか載らないかが大事。画像や映像を作ったら、それをもとに統計を取ったり何なりして論文に載せることを考えろ。」とかそんなことを言われることが時々あります。
何故そう言う発想しかないのか。そう言う話を聞く度にとても残念な気持ちになります。一般社会から評価をしてもらい、支持を得られれば結果として研究もしやすくなるだろうし、予算だってたくさんつくかもしれない。そうやって結果的に学術の世界に貢献すればそれだけで十分素晴らしいことなのではないだろうか。日本でそれが評価されないのであれば、日本にいることの魅力はほとんどない。
永山先生のようにとても影響力のある偉大な先生がサイエンス映像に強い関心を持たれ、日本でもこの分野を何とかしていこうと考えていらっしゃることは僕にとってはとても期待が大きく、日本に光が見える方向に物事が進むことを望んでいます。僕自身も、出来ることがあるなら何でもしたいです。
幸い、11月の科学未来館でのシンポジウムのお陰で永山先生は僕のことを既にご存じでいらして、今日のシンポジウム後に少しお話しをさせて頂くことが出来ました。先生と協力して何かしたい。漠然とそう思いました。
懇親会や2次会にも出席させて頂くことが出来、分子科学研究所の大島康裕先生や、サイエンス映像を科学的な立場から行っている武蔵野美術大学の三浦均先生、国立天文台の小久保先生、デジタルドメインの坂口さん、ユタ大学の大綱先生とかなり真剣トークでそれぞれ30分以上お話しさせて頂き、改めて自分の今後について考えさせられる契機となりました。
全然まとまっていない文章ですが、思っていたことを編集無しにダダダーと書いてみました。
読んで下さった方がもしいらっしゃいましたら本当にありがとうございます。
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「サイエンスとアートとの両方をわかっている人材は非常に重要」なのだが・問題は、この両者ともにあまりにも進歩が早く二足のわらじを履くことがきわめて難しいことなのだと思いますね
たとえばMedicalCGで業界をリードしているBlausen社のHPを見ると(自分の専門外の分野を見ると)、すごいね~と感嘆しますが、自分の専門分野のCGを見ると・・・何これ?何年前に作ったの?と呆れます
はじめまして。
僕は現在カリフォルニア州で医療関係のCGを作る仕事をしています。ここで紹介されているような学会用のものではなく、医療メーカーの新作医療機具の紹介用に使われるものです。
http://www.molecularmovies.com/
このサイトも医療系のCGでは有名です。おもに細胞系のアニメーションが多いです。The Lifecycle of Malariaのアニメーションなどクオリティが高いです。
また毎年夏に開催されるSiggraphにて、こういった医療関係のCG関連者のパネルも開催されてます。
http://drupal.siggraph.org/s2010/
今年はロサンゼルス開催予定です。また日程や参加企業、ブースの一覧がないので今年も医療系のパネルがあるかどうかはっきりしませんが、興味があったらこまめに確認することをお勧めします。
>鈴木さん
プログラミングなどを用いたイメージングなどのアートはとても確かにとても難しいと思いますが、CGソフトウェアの使い方だけであればそれほど劇的に変わると言うことはないので、Blausenのような所謂CGアニメを主に作る会社であれば、クライアント側が最新の状況を提供するかどうか、と言う問題のようにも思えます。iPhoneアプリなどのインターフェースはエンジニアにお願いすれば出来るわけですし。
ただ、そこまでいかなくても二足のわらじを履こうと思う人が少ないのは事実だと思います。
>水谷さん
はじめまして。コメントありがとうございます!個人的にお話ししたいのですが、もし差し支えなければブログの左側にある「メッセージを送る」から、空メッセージで構いませんのでお送り頂けませんでしょうか。
医療機器メーカーは日本でヒアリングに伺ったことがあるのですが、日本に作ってくれるところがないから海外で制作したものを日本語訳するだけ、と言うお話しでした。
molecular moviesは以前から愛用させて頂いております。情報満載で素晴らしいサイトですよね。
Siggraphも毎年気になってはいるのですが、海外と言うこともありまだ参加したことがありません。たまにVolume Rendering系の話なども出ていると聞いております。