異能vation第1期生を卒業したので色々まとめておこうかと。

異能vation

3月4日(金)と5日(土)の2日間、総務省「異能vation」(通称「変な人」)の平成26年度本採択者の成果発表会、並びに平成27年度本採択者の中間発表会が行われました。

僕は、平成26年度本採択者、つまり初代日本の「変な人」TOP 10ということになっておりまして、昨年の今頃は色んな人から「変な人おめでとう!」とか言う、褒められているんだかどうだかわからない祝福の言葉をたくさん頂きましたwww

以下、当事者として、今後の参考になればと思い、勝手に所感なり、自分の取り組みなりをつらつら書き留めておこうと思います。

■異能vation(「変な人」)というブランド
異能vationプロジェクトは、未だ始まって今年で2年と言う出来たてほやほやの国の事業です。
国が付ける名前かよそれwwwって感じですが、その通りでして、名付け親は当時の総務大臣であった衆議院議員の新藤義孝氏。
しかしながら、この色んな意味で強烈な名前のおかげで、また、「変な人」という通称のおかげで炎上マーケティング的に知名度が短期間で一気に上がり、私が本採択に選ばれた第1期生は応募者617名で本採択10名という倍率61.7倍、第2期生も867名中14名で倍率61.9倍という、他のどの予算よりも圧倒的に高い倍率となりまして、話題性と言う意味ではとても美味しいブランドではないかと思います。

「私、国公認の変な人なんです」

という鉄板ネタがしばらく通用することになりますwww

炎上商法っぽい香りもするかもしれませんが、尖っている個人に対してメディアが焦点を当ててくれる、と言う意味で、個人の力で世の中に打って出たい、という方には現時点で最強のブランドとも言えるかもしれません

■予算の使い道
これについては良いところ、悪いところと両方ありました。以下は、私のときのことであって、現在は、或いは今後は変わっていく可能性も十分にあります。

ともあれまずこの異能vation、何が凄いかって、日本政府が初めて、国民個人に最大300万円までの予算を付ける、ということをやってのけたことです。これ、とんでもない博打でもありますよね。

ただでさえ、税金の使い道にとても厳しい風潮になっている中で、何をしでかすか予想もつかない「変な人」たちに国がお金を付けるわけですから。

と、言う意味ではとても画期的でした。

一方、その予算の使い道については大変厳しい制限がありまして、メチャクチャ使いにくかったです。
一番良くなかったのは、異能vationの告知が出たときに、予算300万円を人件費(生活費)に充てることが出来ますか?というQ&Aにて「はい、出来ます。」となっていたことで、生活費にするために真剣に応募した人もいたわけですが、本採択後になってから、実は人件費として認めてもらうのは超絶大変で、事実上メチャクチャ難しい、ということが後からわかった、という点です。

いま久々に確認してみたら、最新のQ&Aでは「人件費(制作費)として300万円を一括でお支払い、または固定の金額で毎月お支払いという訳にはいきません。技術開発日誌や技術開発時間のログ等、細かく提出をしていただいて、はじめてお支払いが可能となります。」と、追記されていますね。

異能vationはICT(情報技術分野)への挑戦者を募集、というのが大きな看板になっています。

ということは、ソフトウェアエンジニア系の方の場合、既に開発環境の機材などはほぼ揃っていて、じっくり考えたりコードを書く時間を確保したい、そして、その期間に自分が生活していけるために人件費が欲しい、という場合が少なくないと思いますが、これが上述のようにメチャクチャ難しいです。

「変な人」相手に細かい技術開発日誌やログの細かい提出とか、普通の企業と同じじゃねーか!そうじゃねーだろっ!と言いたくなりますね。

また、日誌をしっかり出したとしても、昨年度までの年収に従って国の基準に則って時間給換算、みたいな形になりまして、長時間使って日誌やログを作っても学生のバイトに毛が生えた、みたいな額しかならなかった、みたいなことが容易に起こり得ます

なので、100%頭で考えて100%コード書くことに集中したくて、1日中ずっと頭で考えるだけで1行もコード書かない日とかもあるし機材も最初から全部あって、でも当面の生活費を保証したい、というような人には異能vationは向かないと思いました。ソフトウェアエンジニア系の方だったら比較的あり得るパターンだと思うのですが…。繰り返しますが、これは私が採択された第1期生の話であって、現状、及びこれからどうなっていくのかはわかりません。

一方で、機材や部品は購入しやすいです。まぁ結局あれです、一般的な国の予算の使い方の縛りと同じです
私の場合は、リアルタイムCGを作れるように、ゲーミングPCやら大きなモニタやらを買うことにしました。

ですから、ハードウェア系であったり、そもそも機材から一新したい、という方にとってはとても魅力的かと思います。

しかしながら上述のように、「異能vation」という圧倒的なブランドを手に入れることが出来ますので、例え予算をほとんど使わないとしても、本採択された、というだけでも、予算以上の価値はあるものと思います。

国からしたら、300万円とはいえ税金ですので、本採択者に300万円を最初に渡して後はご自由にお使いください、とはしたくない、というのは、うーん、まぁそれはそうなのかもしれないのですが、「変な人」ですよ。国民もそれくらい許してくれると思うんだけどなぁ(…とか言うと国民に怒られるか)。

■チームプレイ
プログラムは自分で作るけれども、デザインはいつも一緒にやっているあの人に今回もお願いしたい、とか、自分はアイディアマンであって、実装したり物を作ったりするのは他の人たち、というスタイルもごくごく普通にあると思いますが、チームプレイで何かを作りたい、という場合には異能vationは向いていません

前述の通り、異能vationは国が個人に予算を分配するものです。
そして、通称「変な人」と言われているように、個人をフィーチャーしたプログラムです。

ですので、基本的に何から何まで自分で全部やる、というのが前提です
もちろん、他の予算と同様の手続きで外注なども出来ますが、他の予算と同様の手続きなので、見積書を複数取って一番安いところになる、とか、どうしてもこの人じゃないと出来ない部分があるからこの人で、みたいなものが認められないと、いつも一緒にやっているあの人、みたいな人に異能vation予算から気軽に報酬を払うことが出来ません。

既製品だと簡単に買えて、オーダーメイドだと超絶面倒臭くなるというのは何とも理不尽ですが、賄賂とか癒着とか、そんなのが騒がれている時代ですし、人から人へのお金のやり取りが厳しいのは確かに理にかなっているのかもしれません。

…が、うーん、だから、僕たち「変な人」なんだってばー

■スーパーバイザーの方々との繋がり
これはとてもとても残念で、IPA未踏と異なり、異能vationでは豪華スーパーバイザーとの接点はほとんど持てません

せっかくもの凄い顔ぶれのスーパーバイザーの方々がいらっしゃるのに、これは何とも残念です。

彼らの仕事は、「変な人」になり得る可能性のある人たちを膨大な数の応募者たちから選ぶこと、そして中間発表などで審査をすることであって、スーパーバイザーは本採択された人たちのメンターでもアドバイザーでもない、と言うのが異能vationの中の人たちの説明です。

いやまぁ、そう…なのかもしれないけれども、スーパーバイザーの方々に的確なアドバイスを貰いたい、と思っている人は多いはず。
本採択者がスーパーバイザーと話したいと思ったら、記者発表の日や今回の成果発表の日などで自分から無理やりにでもスーパーバイザーに話しかけるくらいしか方法がありません

僕は3月4日に、今年からスーパーバイザーに加わられた、映画監督の三池崇史氏に「3年前くらいに三池さんが総監修をされたドラマ彼岸島のオープニング映像の体内CGパートの監督を僕がやったんでしょー」と話しかけたらメッチャ盛り上がりましたwww

「変な人」は、選ばれたら後は本人たちが勝手にプロジェクトを進める、だからこその「変な人」、というスタンスです。これも異能vationの中の人の言葉です。

んー、だから、僕たち「変な人」は、偉大なる「変な人」(スーパーバイザー)の方々からの示唆をもっとたくさんもらいたいんだってばー。

■成果発表
んで、初めての成果発表会が2日間行われたわけですが、高市総務大臣も、新藤前総務大臣もいらっしゃったり、初日にはマスコミも多数来たりと、やはりブランド力は凄いです。

3月4日は15時近くにテレビ朝日がカメラ取材にやってきて、その日の17:30頃には放送されていました。

まぁ、メディア的には採り上げやすいですよね。僕もメッチャインタビュー受けたのですが、インタビューは全カットになってしまいました。

テレビ朝日ニュース

テレビ朝日ニュース

テレビ朝日ニュース

でもキーとなるカットではだいぶ採用されていて、ここだけ抜粋すると僕の特集に見えなくもないwww

ただ、もしテレビ朝日がインタビューを採り上げてくれれば、気管支鏡訓練の必要性と操作の難しさ、そして一度やったらのめり込んでしまう面白さを国中に伝える良い機会だったのに…残念!

■最後に、自分の研究内容についてちょっと紹介
と、まぁ、以上が異能vation初代本採択者の1人としての雑感です。こういうの書くと悪いところが目立ってしまいますが、良いところもたくさんありますので!

最後に、自分の研究についてちょっとだけ。

「サイエンスを、正しく、楽しく。」でサイエンス、特に医療の世界を良くしたいです。

という、お前ふざけてんのか?みたいな研究テーマで本採択されました。

平成26年度の本採択者のテーマ文章で書かれているのは僕だけですねw
他の研究テーマ名、なんか普通の研究予算みたいで異能っぽくないじゃん。いや、どれも中身は超異能なのだけれども。

もし僕の研究テーマを見て、バックグラウンドなどをさらに知りたいと思って下さった方がもしいらっしゃいましたら、3月2日に日本経済新聞電子版で素敵過ぎる記事が公開されましたので、ぜひそちらをお読みください!!!

雑誌TV Bros.でもとても丁寧に取り上げて頂いているので、ご興味あればこちらも!!
コンビニでも売っている雑誌です!

話を戻します。そんな、お前ふざけてんのか?みたいな研究テーマ名ですが、本人はこれでも大真面目に取り組みました

中でも力を入れたのは、やっぱり何年も前から取り組んでいる気管支
古くは3年前に放送されたTBS「夢の扉+」のとき、つまり自分が東大病院で初期研修医をしていたときから最初の取り組みをやっておりました。

TBS「夢の扉+」2013年1月27日 #89「”科学する”CGで医療を変える」

当時から今もずっと監修をして下さっている、大学の先輩で呼吸器外科の佐野厚先生には本当に頭が上がりません。

んで、この1年で異能vation予算も使いながらようやく進化させることが出来ました。
具体的には気管支鏡の訓練や事前のシミュレーションをコンピュータ内のみで超簡単な操作でスイスイ出来るようにしました

荒削りなものではありましたが、誰でもその場で体験出来るようなソフトウェアにまで持っていけたのは自分的にもとても意味深いものでした。
体験してもらえれば、とても真剣な取り組みであることがみんなに伝わる、ということも実感出来ました。

今後、壁ばかり立ちはだかっていますが、これ、絶対気管支鏡の検査時間を短縮出来るし、若手のお医者さんや医学部生があっという間に気管支鏡の操作を覚えることが出来て、身に迷ったり間違った操作をする可能性も一気に減らせるし、世界中で当たり前に使われるようにしたい

医療機器がどうのとかISOがどうのとか品質管理がどうのとか保険点数がどうのとか、本当に壁しかない。大手とも組みたいけれども、きちんと権利関係を調整しないと絶対上手くいかない。

などなど、悩むことばかりなのですが、「世界中で当たり前に使われるようにするんだ!」と言い続けていればきっと実現する…はず!

と、いうわけで、無事に(?)初代異能vation本採択者としての1年間が終わりましたー!

異能vation

■おまけ1

■おまけ2


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日本国内で一部蔓延っているOsiriX万能論が危険過ぎると思った件。

第21回日本形成外科手術手技学会にて、特別講演「3DCGは医療に本当に役立つのか?ただ格好良いだけではないのか?」を行ってきましたー!

埼玉医科大学総合医療センター形成外科・美容外科教授の三鍋俊春先生が今回の学会の会長をされていらっしゃったのですが、そこで講師をされている大西文夫先生が筑駒の大先輩!という繋がりで、いままで形成外科はほとんど関わったことが無いにもかかわらず、50分間もの特別講演枠を頂くことが出来ました。感謝感激です。

先生方の前で感謝状まで頂いてしまいました!

さらにバレンタインデー前日、とのことで、学会からのお土産としてチョコレートまでも頂けたという何とも粋な計らい!

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さてさて、講演内容に直結することなのですが、3DCGはけっして万能ではなく、魔法の技術でもありません

医者が一番知りたい立体情報は何なのか、どこまでの精度が欲しいのか、変形などの動きは必要なのか、患者さん個々のものが欲しいのか、それとも代表例で十分なのか、など、様々な条件があり、条件によって3DCGが真価を発揮することもあれば、残念ながら技術的に難しいこともあります

特別講演では、そのあたりを具体例を挙げながらお話させて頂きました!

んで、ここからが問題提起と言いますか、苦言と言いますか。

今日の講演後にも何人か先生方に声をかけて頂いたのですが、日本の外科系の先生方の間で一部蔓延っている「OsiriX万能論」は何とかしなければいけないと思います

いや、別にOsiriXが使えないソフトウェアというわけでは全く無いのですが、OsiriXは優秀なDICOMビューアーであって、最近では任意の曲面での断面も表示できるようになっているようですが、CTからの臓器抽出や3DCGモデル作成用のソフトウェアではありません

3Dプリンタ出力時に一般的に使われているSTL形式でのデータ出力は出来ますが、それは文字通り「STL形式でデータ出力が出来る機能を持っている」というだけでして、臓器抽出や3DCGモデル作成が不完全であれば、不完全なままのSTLデータが掃き出されます

そして、3Dプリンタ出力に適したSTLデータをOsiriXだけで作るのはメチャクチャ難しいです。仮に骨など単純な手法でも抽出しやすいものに関してOsiriXで抽出出来たとしても、メッシュを作るときに孤立点を除去するとか、穴埋めするとか、綺麗な流れにするとか、OsiriXではそこまで出来ません

…ってのはOsiriXの開発者や、それなりに詳しい方々なら当たり前にわかっているはずで、おそらくOsiriXの開発者たちもそんな使い方は想定されていない…と思うのですが、それなのに臓器3DCGモデル作成(…からの3Dプリンタ出力が主だと思いますが)に関してOsiriX万能を謳う人がいたら、それはもうだいぶ罪深いと言いますか、詐欺だと思うのです

いやー、普段から思っていることを遂に書いてしまった。今日の講演が良いきっかけになりました。すっきりしたw

講演では、バリバリの医学系の学会でUnreal Engineのリアルタイムデモも、Unityのリアルタイムデモも、どちらも提示させて頂くという、あまり過去に例がないであろう試みも出来ましたー!

これをきっかけに形成外科領域でも何か3DCGが役立つことがあれば取り組めると良いなぁ。

素敵な機会を本当にありがとうございました!


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