可視化シンポジウムに行ってきました。

日本学術会議講堂

昨日9/22に日本学術会議講堂にて開催された、
日本学術会議 公開シンポジウム
第1回可視化シンポジウム
https://sites.google.com/site/scjvissymposium2014/

に、朝10時から夕方6時過ぎ+懇親会で丸1日可視化研究の先生方とご一緒させて頂きました。

アカデミックな立場で可視化がどう捉えられているかが伝わってきてなかなか面白かったです。3Dの可視化は、論文に載せられないなど紙の資料としての配布が難しいことから研究現場ではなかなか使われていない、と言う一方で、エンタメCG業界でも最近の動向である物理ベースのシェーディング技術が可視化研究にも取り入れられていたり人間の美意識に訴える可視化が思った以上に学術領域でも問題意識として持たれていたり

UnityやUnrealなどは、可視化分野の先生方も注目されているそうです。

しかし何と言っても今日一番の衝撃は、理化学研究所 計算科学研究機構のチームリーダでいらっしゃる小野謙二先生のご発表。

スパコン京でデータ生成すると同時にRaytracing + Global Illuminationまで付けたレンダリングを京で一気に行ってしまう取り組み。

最近、Unity関係でShaderをちょっとかじったり、スーパープログラマーさまたちに教えて頂いたりしていたことが理解に非常に役立ちました。OpenGL ESとかGLSLとかL1キャッシュとか、とりあえず単語レベルでは付いていけた(単語レベルだけという話もあるw)。

京でRaytracing + GIを一気にやれば、超遅いFile I/Oが全部要らなくなるので超速くなる、っていうか、そこまで出来ちゃうとデザイナーの仕事が完全に無くなる…orz

ただ、いまはバッチ処理しか流せないそうで、出来上がってくる絵を見ながらパラメータ調整などを行おうとするとワークフローを変えなければいけないとのこと。

数万CPUで京をフル活用すると、8K×8KのRaytracing + GIが6秒くらいでレンダリング出来るそうですw

シンポジウムの後に小野先生と直接お話しさせて頂くことが出来たのですが、法線方向を無理矢理いじったり変に光らせたりするのではなく、物理的に正しいシェーディング、ライティングを行うことは、3Dでの可視化を人間の眼で見たときに感じるもの、気付くものが多いだろう、とのことで、とても納得。

またしても自分の進むべき道がわからなくなってしまった。

医学、商業ベースのCG、プログラミングの基礎の基礎、可視化の基礎の基礎、映像制作の基礎の基礎、デザイン制作の基礎の基礎を広く浅く知っていることが役立つ世界って何だろう。全部二流か三流ですが。それぞれの楽器を奏でることは出来ないけれども上手くコントロール出来る指揮者、みたいな感じで色々出来ないかな。世の中そんなに甘くないかな…。


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医療における3Dプリンタの大きな大きな誤解

NEWS ZEROで、「精巧3D臓器で変化…最新医療の現場×桐谷美玲」と言う特集が放送されていた。

医療×3Dプリンタを扱うテレビ特集はここ何年かだいぶ流行っています、と言いますか、加熱し過ぎな印象です。

まぁだいたいどんな感じで特集されるのかは見る前から想像付くわけですが、今回の特集もまたネガティブな意味でいつも通りな感じで、3Dプリンタ万能論的な報道をされてしまったのが非常に怖いです。

3Dプリンタで手術前の臓器のモデルを出力出来れば、手術前に様々な検討が出来ますし、手術の訓練も出来ます。患者さんへの説明にも使えますし、医学生教育にも使えるでしょう。

3Dプリンタ素敵ですね!

ただしこれらは、3Dプリントするためのきちんとした臓器データを作ることが出来れば、の話です。

ここなんですよ、一番大事なのは。

だってちょっと考えてみたら誰でも分かると思うのですが、

「3Dプリンタの技術が向上したので、どんな臓器でもリアルな臓器モデルを作ることが出来ます!」と主張するのは、「印刷機の技術が向上したので、素晴らしい小説が出来上がります!」と言っているのと同じです。

…そんなわけないですよね。印刷機の技術が向上したので勝手に素晴らしい小説が出来るわけがないのです。最初に素晴らしい小説を書き上げた誰かがいて、それが、印刷機の技術が上がることで、より高速に大量印刷出来たり、綺麗に印刷することが出来るわけです。

3Dプリンタだって同じで、3Dプリントするために破綻のないきちんとした3D臓器モデルデータを作ることが出来て初めて3Dプリンタ出力することが出来るわけです。

こんなに当たり前のことなのに、意外と世の中一番大事なところに気付いていない。

で、今日のNEWS ZEROで最も危険だと身震いしてしまったのが、

「CTやMRIに映るものは全て3Dモデルにできる」

と、桐谷美玲さんのナレーションに加えてご丁寧にテロップまで付いていた点。

んなわけねーだろ!!

医用画像から目的の臓器を抽出するのはとてもとても大変なのです。

誤解されている方も多いと思いますが、CTやMRI画像には、「ここが心臓」とか「ここが腎臓」とか、そんな情報は一切含まれていません。

超ざっくり言えば(ざっくり過ぎて専門の先生方から怒られてしまうかもしれませんが)X線をどれだけ吸収するかとか、プロトンの密度とかが記録されているだけです。

もっと超ざっくり言えば、白黒写真です。ある点は真っ黒で、ある点は灰色で、ある点は白っぽい、みたいな、そんな感じです。

一般的な白黒写真を見て、誰かが映っていたとして、それがヒトであると認識出来るのは、私たちがヒトがどんな形なのかを知っているからで、この白黒写真をパソコンにスキャンしたとして、勝手にヒトだけを識別出来るわけがありません。

「いや、顔認識とかしてくれるじゃん!」

はいそうです。その通りです。顔認識してくれるソフトとかもあるかと思いますが、それは、顔認識させるためのアルゴリズムが実装されているからです。だいたいこんな形状だったら人間の顔と認識して下さい、色はだいたいこんな色で、顔と認識したらこのあたりに眼があります、みたいな、例えばそんな感じのプログラムがあるから顔と認識出来るわけで、アルゴリズムが入っていなければ、白黒の点の集合です。

CTやMRIも全く同じです。白黒の点の集合です。ただ、私たちは、この部分には心臓があるとか、ここでは血管は2つに分岐しているとか、そのような情報を知っているから各臓器を認識することが出来ます。

つまり、「CTやMRIに映るものは全て3Dモデルにできる」ためには、どこに何が映っているのかを瞬時に判断出来るための極めて高度なアルゴリズムを全て実装している必要があります

そんなの無理です。50年後には出来るようになっているかもしれませんが、少なくとも今は全く無理です。

だいたい、初心者のお医者さんとベテランの放射線科の先生とでは、同じ医用画像を見たときにわかる情報量が全く異なります。

私も放射線科で何ヶ月か初期研修していましたが、「ここ明らかに病変ですよね」とベテランの先生が指摘されていた箇所で自分的には「え??どこですか???」みたいな部分もたくさんありました。

また、医用画像を正しく読むためには、患者さんの情報を事前にどれだけ知っているのかもとても重要で、「○○が痛い」とか「過去に○○の手術をしている」とか、そのような情報を知っているからこそ読み取れることもたくさんあります

「CTやMRIに映るものは全て3Dモデルにできる」だなんて軽率すぎる。

もう1つ、医療での3Dプリンタ特有の問題もあります。

ここまでボッコボコに書いてしまいましたが、それでも最近では、正常な臓器の中には、ある程度自動で抽出出来るものや、だいぶ短時間で修正まで出来るものも増えてきました(それが手術前の検証などに使えるほど細かいレベルかどうかは別として)。

でも、これもちょっと考えればすぐわかるかと思いますが、3Dプリンタ出力したいとお医者さんが思うのは、正常な臓器よりも寧ろ、異常な臓器、それも立体的に見てみないと把握しづらいような複雑な病変です

正常な臓器を抽出出来るアルゴリズムを用いて、異常な臓器を抽出出来るかというとそんなはずはありません。臓器の一部がぐにゃっと曲がっていたりとか、一部が押しつぶされていたりとか、或いは手術後で臓器の一部が既に切除されていた場合に簡単に臓器の立体データを作れるのであれば世の中平和です。

正常な臓器でさえきちんとした立体データを作るのにまだまだ課題があるのに、異常な臓器をボタン1つで抽出して「CTやMRIに映るものは全て3Dモデルにできる」とか、もう全然違います

且つ、3Dデータが出来たとしても、それが3Dプリントするために破綻の無い構造になっているかとか、細い部分が切れてしまったりしていないかとか、3Dデータが出来てから3Dプリントするまでにも実はかなりの壁があります

患者さんへのインフォームドコンセントにも良いってコメンテーターの方とかよく言いますけれども、説明用に3Dプリンタ出力したとして、そのための費用は誰がどのように払うのでしょうか。タダで出力なんて出来るわけないのです。これまで説明してきたように、出力のための実費以外に、手作業で臓器を抽出したり、それを破綻の無いデータに仕上げたりと、かなりのコストがかかります。

もちろん、だから医療での3Dプリンタの応用とかバカげている!と言いたいわけでは全くなく、3Dプリンタを用いることで手術の訓練が出来たり、医者の訓練が出来たり、学生の理解度が深まったり、患者さんの不安が軽減出来たりと、良いことはたくさんあるわけで、ぜひ普及して欲しいと思っています。

実際、今日の報道にもあったように、3Dプリンタを使って出力されたモデルで手術前の検討を行ったり、訓練を行うことは既に実施されていますし、その他にも、欠けた骨の一部を3Dプリンタで出力して補間したり、狭窄した部分を3Dプリンタで出力したステントで広げる試みも既に現場で行われており、もっと普通に使われるようになればと思っています。

3Dプリンタは、然るべきタイミングで医療を大きく変えるものだとも思っていますし、実際の事例の報道もぜひ行われるべきだと思います。

ただ、ここ何年かの日本での医療×3Dプリンタに関する報道は、あまりにも短絡的と言いますか、いかにも「ボタン1つで何でも出力出来ちゃうぜ!」的な印象を強く与える報道になっているので、もうちょっと問題点とか課題とかをきちんと伝えないと、誤った印象だけが独り歩きしてしまうと言う危険なことになってしまうのではないかと思った次第です。

文句、批判ばかり書き連ねてもアレなので、最後に、自分の胸部CTから気管支を抽出して綺麗な3DCG気管支データを作って、それを実物大出力した写真を貼り付けておきます。一連の作業を自分で一通りやってみると、どれだけ大変なのか本当に良く分かりますよ!

3Dプリンタ出力した気管支


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