今日で4月も終わり。株式会社サイアメントの代表取締役社長としての最初の1ヶ月が終わりました。
想像はしていましたが、想像以上に前途多難、そして精神的にも辛い最初の1ヶ月でした。
この1ヶ月間は幸いにしてほぼ連日のように打ち合わせがあり、その意味では充実していました。4/4には神奈川県の黒岩知事にも久々にお会いすることが出来ました。神奈川県のウェブサイトにもきちんと掲載されています。
4/15には、厚生労働省からの依頼で1~3月にサイアメントが全力をあげてCGパートを頑張って作った、乳幼児揺さぶられ症候群の予防啓発DVDが記者発表され、新聞記事にもなりました。
設立してまだ1年も経っていない会社が厚生労働省とお仕事させて頂くなど通常あり得ない話で、大変に名誉なことです。
また、4/19には雑誌「ドリームナビ」にて、「夢のかなえかたを大人に聞いてみました」と言うタイトルで特集して頂きました。
その意味では非常に充実した最初の1ヶ月だったわけですが、一方で、正直な話、今月新たに受注出来た案件は無く、新たな売り上げとしては0、つまりは収入も0だったわけです。
どんなに打ち合わせをしようが、どんなにメディアに露出しようが、ポスター1枚でもイラスト1枚でも案件として成立させない限りはいつまで経っても収入0です。
長い目で見れば、いつか受注出来そうな話はいくつかあるのですが、それまで会社が持つか、と言うのがまず最初に待ち受けている関門です。
面白いのは、私や、私と共に働いて下さっている社員さんは毎日とてもとても焦っているですが、一方で、ベンチャーを1から立ち上げたことのある知り合いのベテラン勢の方々は全くもって何も心配していない点。
「立ち上げ期なんてそんなもんですよ。」「安売りせずに価値を高めていけば大丈夫ですよ。」「最初から苦労なく出来る事なんてないですから。」と。
とある方から伺った話によると、「売り上げどうしよう、どうしよう。」と焦っていると経営は本当に上手くいかないらしいです。思い切って開き直って「儲けなんてどうでもいいや。今やるべきこと、目の前のことをとにかく丁寧にきちんとこなしていこう。」と言う気持ちでやっていると自然と上手くいくそうです。精神論的な考え方は個人的にはあまり好きではないほうなのですが、人生の先輩方のお言葉なのできっと正しいのだと思います。
自分で言うのもだいぶ偉そうな話ですが、僕の会社、サイアメントが失敗したら、たぶん日本でサイエンスCGが根付くことはないと思っています。きちんとしたサイエンスコンテンツを作ろうとすると、制作に取りかかるまでの打ち合わせに時間をかけるのはもちろんですが、一流のデザイナーや一流のプログラマーを使わなければ意味がありません。中途半端なものを作っても結局世界には通用しないし、社会貢献にもなりません。しかし、一流を取りそろえるということはつまり、それだけお金もかかります。
とにかく安く数万円で引き受けて良いものを作ったとしても、発注側は喜ぶかもしれませんが、作り手は悲鳴を上げるしかありません。作り手が泣きを見るようなシステムでは絶対に上手くいきません。売り上げを何とかしないと会社が潰れてしまいますが、それでも「安売りはしない」と言うのはまさにこのことです。
日本でも最近サイエンスビジュアリゼーションと言う言葉が徐々に流行ってきていますが、時々破格でサイエンスコンテンツ制作を受けている個人や他社を見ると悲しくなります。もちろん、最初の実績作りのために請け負うのは戦略的には十分ありだと思いますが、それが常習化されると作り手の誰にとっても悲劇です。
例えばデザインに丸々1週間かかる仕事が数万円で出来るか。出来るわけがありません。単純なことです。1週間丸々かけて例えばデザイン費が3万円だとしましょう。1ヶ月で12万円です。1人の給料が12万円です。あり得ません。しかも、サイエンスの専門知識を必要とするのにその「技術費」「専門費」も全く考慮されていません。
…と言うようなことを考えてしまうと、なかなか発注側と受注側との間に温度差があるのもまた事実なのですが、でもやっぱりもうちょっとデザインに対しての意識改革が必要なのではないかと思います。
デザインの世界は完成したものを見てしまうとなんてことないかもしれませんが、ほんの少し文字間を変えたり、ほんの少しタイトルの位置をずらしたり、或いはアニメーションのタイミングを0.5秒変えるために丸1日以上かけることもあります。デザインというのはそのようなお仕事です。様々に計算されたデザインが全てかみ合うことによって、びっくりするくらい美しい作品が出来上がるのですが、途中経過がわかりにくいこともあって、なかなかしっかり評価されないことが多いのではないかと思います。
私も自分でデザインしたり映像を作ったりする人間なので、わずかな違いを出すためにどれほどの労力がかかるのかは良くわかっているつもりです。
最近、このことをもっとわかってもらいたくて、資料を作りました。
専門知識をしっかり反映した、「正しく、楽しい」コンテンツを作るのは本当に大変なんですよー、と言うことが少しでも伝わればと思っています。
5月からは、東大生協と本格的に協力して、日本の大学として初めてのサイエンスイラスト制作サービスを始めます。
案内にも書いてあるとおり、高いです。高くても皆さんがその価値を認めて下さるか、そうでないか、日本でサイエンスCGが認められるかどうかは近いうちにある程度答えが見えるような気がします。
今は、とにかく目の前のあらゆることに対して一生懸命頑張るのみです。
一緒に会社に携わって下さっている方々、そして多くの周りの方々に支えて頂いており、大変幸せなことなのですが、やはり病院と異なり、普段自分の周りに何でも話せる同期のお医者さんや、いつも笑顔でキャピキャピしていた同世代の看護師さんが全くいないのは結構辛いものがあります。今月は、病院時代の同世代と1回だけ集まって喋りましたが、その1回だけでした。
「夢を叶えるために一生懸命頑張ろう!」と言葉で言うのは簡単でかつ格好良くも聞こえますが、実際にやるのには中途半端な気持ちでは心が折れてしまいますし、僕自身もこの1ヶ月で既に何度も心が折れそうになったこともあり、相当な覚悟がない限り決しておすすめ出来ない道です。
さて、5月は一体どんな1ヶ月が待っているのでしょう。
研修医時代にアルバイトとしてやっていたCGを本業にするなんてすごいですね