昨日、「第1回 日本橋メディカル・イノベーターズ・サミット」と「第74回千葉県外科医会~見て学ぶ外科の手術手技~」とのダブルヘッダーで感じたことを深夜のテンションで書いたのですが(http://www.sciement.com/blog/3dcg/20150704/1187/)、今日、ニコ生タイムシフトで、第1回 日本橋メディカル・イノベーターズ・サミットの自分のセッションと、その次の武部貴則先生のセッションとを視聴したので、昨日の記事とはまた別の視点で、「医療を良くする」ってなんなのか、続きを書いてみようかと思います。
まずは自分が出たセッション、Session1 「アート×医療 ~アートで医療を変える~」ですが、これ、ニコ生のコメントでもTwitterなどのコメントでも指摘されていたのですが、うーん、こうやって第三者的に見てみると、一応2カ所、チームラボの猪子さんには直接話題を振って話を聞き出しましたが、もっと強制的に踏み込んでトークの軌道修正とか自分がすべきでしたかねぇ。
後半とか、何の話をしているセッションなのか全然分からない…。
前にも学生企画で同じようなのがあったのだけれども、ファシリテーターが自分じゃないときに難しいんだよなぁここらへん。そもそも僕自身がセッション名を否定していて自分はアートじゃなくてデザインやっています、と名言していて、アートについてはほとんど知識が無いので、デザイン寄りに振ってい良いのであれば話をコントロールすることは出来るのだけれども、あくまでもアートのセッションだとすると、話の進め方がわからないし、セッションの趣旨が変わってしまうんだよなぁ、きっと。セッション2のタイトルが「デザイン×…」とお言うこともあり、焦点をどこに持って行けばよいのか自分の中で消化しきれないままの本番になってしまいました。
そして今日視聴して、横浜市立大学の武部先生のセッション。Session2 「デザイン×健康 ~新たな視点で健康をデザインする~」は完成度がとても高かった。と、言うよりは武部先生に完全に進行を任せているので余計なノイズが入っていなくて、話の筋道が完璧に出来ている。
但しこれは単純に比較出来るものではなくて、武部先生のほうは武部先生が完全に主役で、補足的に電通の方が2名いらっしゃって、武部先生と共同でなされたプロジェクトの当事者としての話をされる、と言うスタイル。
一方僕が出ていたセッションは、立場も何も全然違う4人が自分たちのことを話した後で、それぞれの立場でお題についてディスカッションをする、と言うスタイル。
当然、ディスカッションスタイルのほうが難易度がずっと高く、ファシリテーターの責任がかなり大きくなります。
で、Session 2では、行動変容を促すときに、本来の目標とは違うことを前面に出して、でも結果は同じになるようにする、みたいな広告手法ドストライクな分野の話でした。
例えば、ある会社で社員が毎日3分間歩く時間を増やすにはどうすれば良いか、と言う「お題」に対して、本来の目的は社員の健康(運動)促進なわけですが、「この会社の建物からこんな絶景が見えるスポットはどこでしょう?」みたいなクイズと、実際に建物のどこかから撮った写真を掲載したポスターをトイレに貼っておいて、絶景ポイントは屋上とか比較的行くのが大変なところが多いので、ちょっと時間がかかってもわざわざ歩いて見に行く、と言うことを目標にしつつ、結果としては歩く時間が増えるのでお題を達成しました、みたいなやつ。
これ自体はとても素晴らしい取り組みで、それで医療が良くなる(健康に繋がる)のであれば積極的に採用するべきなのだけれども、一方で、広告的手法中心ではどうにもならないこともあって、それは例えば、「両大血管右室起始症(DORV)の血行動態ってどうなっているの?」とか「EBUS-TBNAの手順」とか、医学的知識がど真ん中に無いと何も出来ない部分で、僕はこっちをやっていきたい。
「塩分摂取1日6g以下を意識するためにはどうすれば良いか?」とか、先ほどの「毎日3分間歩く時間を増やすにはどうすれば良いか?」みたいなものは、「お題」として非常にわかりやすく、簡単なわけです(お題に関する答え、ソリューションが簡単かどうかとは全く別)。
「お題」の裏には、塩分摂取6g以下にすることと心血管系イベント発生との関係、みたいな難しいことが隠れているわけですが、そんなのは「お題」さえ達成出来ればその先のことまで一般の人たちが考える必要が無い、と言う意味で簡単なわけです。
その手のわかりやすい「お題」を解決することで、健康促進とか予防医療とかで病気そのものを減らせればそれはとても良いことなのだけれども、しかしいくら予防を心がけたり、健診をしていても病気になってしまうことは絶対にあって、患者さん本人やご家族が「両大血管右室起始症(DORV)の血行動態」について理解したいと強く思うことは今後も無くならないでしょうし、医学生や経験数の浅い医者、或いは病棟の看護師さんなどが「EBUS-TBNAの手順」を理解したり、トレーニングをする、と言う機会はこれからも無くなりません。
いや寧ろ、医療機器や治療方法がどんどん高度化していっているこの時代、医者同士でも科が異なれば全然わからなかったり、特定の科以外ではほぼ絶対に使わない医療機器とかもあるわけで、それを手助けするためのコンテンツを作るためには、作り手が医学的内容そのものをきちんとわかっていないと絶対に先に進みません。適切なコンテンツがあったとしても、完全なものを作るのは難しいかもしれません。
もちろん、これをやるためにも、医学的知識だけではダメで、見せ方のテクニックとして映像であればカメラワークやカット割、アプリであればUIなどの分野とのかけ合わせが不可欠で、場合によっては広告的手法が活かされる場合もあるとは思います。
でもそれらは、目標設定を別のものに置き換えて実はお題を達成する、と言う類のものではなく、「お題」そのものを作り手が正しく正確に理解するところが最大のボトルネックになるわけです。
ちょっと宣伝っぽくなって恐縮ですが、去年、iPS細胞研究所とご一緒させて頂いて、iPS MASTERと言う学習アプリを作りました。
http://www.sciement.com/jp/works/realtime/iPSMASTER.html
これは、山中伸弥先生のノーベル賞受賞論文とされている
Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors
http://www.cell.com/abstract/S0092-8674(06)00976-7
の内容を出来るだけ忠実に、且つ楽しみながら追体験しながら理解することを目的としたアプリで、その他に、iPS細胞発見までの道のりを電子教科書のような形で簡単なアニメーションとともに学べる機能も付けています。
http://www.sciement.com/jp/works/realtime/iPSMASTER.html
これなんかは、もちろん、アプリに落とし込むために、最終的にはゲーム制作のテクニックや、心地よいUIのノウハウなどが必要になるのですが、そもそものお題「山中伸弥先生のノーベル賞受賞論文の内容理解」が難しすぎて、それを理解するところが最初の超大きな壁になります。もちろん、理解出来たところで、相当しょぼいデザインや、次に何をすれば良いのかわからないようなゲーム画面では意味をなさないので、内容理解が最も大事、とは一概には言い切れず、結局はどちらも同じくらい大切なのですが、手法のノウハウはたくさんあるけれどもそもそもの内容がわからない、と言う状況にもかかわらずに「医療を変えよう!」と声をあげているところは意外と多いように思います。
まぁ、これに限って言えば武部先生はiPS細胞研究ドストライクでもいらっしゃいますので、武部先生×電通で超凄いものが出来る気も致しますが。
いわゆる「クリエイティブ」と言われるものと「医療」とを結び付けようとする場合、
「みんなが頭では理解しているけれどもなかなか行動に移せない、実行できないことを変えて医療(健康)を良くする」
「そもそも専門家であっても理解が難しいことを一般の方、或いは医療系初心者が短時間で理解しないといけない状況、或いは少しでも理解したいと強く願う状況を何とかする」
の2つがあると思っていて、この2つのどっちなのかを意識しながら議論をすると、いま流行りの「医療×○○」を理解しやすくなるのかなぁ、と思います。
で、僕の場合は、間違いなく後者、超難しいものそのものを少しでも理解するためのソリューションを提示したいよねー、と言うのが自分のモチベーションになっているのだなぁ、と。